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学校は「別世界」だからこそ…

前回の記事で紹介させていただいた「小さな命の意味を考える会」代表の佐藤敏郎先生が

震災直後の学校について次のようなことを話されたそうです。

 

* * * * *

「震災の津波によって女川町の人口の約1割が亡くなり、

建物の8割が住めなくなり、

町は瓦礫であふれました。

 

そんな中、4月から学校が始まりました。

「この状況で始めていいのか」という声が周囲からたくさん上がりました。

 

でも、あのとき始めて正解だったと思います。

学校は『別世界』ですから、

子どもたちを少しの時間でもそこにいさせる意味は大きかったと思うのです。

そして学校から子どもたちの声が聞こえることで、

町の人たちはどれだけ元気づけられただろうかと思います。

* * * * *

 

 

学校は、『別世界』・・・その通りだと思います。

『別世界』だからこそ、

震災の直後のこの学校のように、

普段の学校でも、大きな役割を果たすことができるように思います。

 

 

子どもたちの中には、

大きな悩みや苦しみを抱えている子たち、

過酷な環境の中で過ごしている子たちがいます。

 

こういう子たちは、

自分に価値があると思えない…

自分の居場所が見つからない…

 

だから、

他の子たちとうまく関わることができないし、

落ち着いて学習に集中するということが難しい・・・。

 

家族が病気になったり、

親の仕事上の問題が起きたり、

家族間でトラブルになったり…

もちろん生きていく上では、様々な問題が起きることが当然です。

 

そして、それを乗り越えることができたら、

子どもたちは、大きく成長するわけですが、

家庭が安心できる場でない場合、

核になる部分が揺らいでいる状態ですから、

子どもたちにも様々な問題が生じることが多いです。

 

そんな時、

家庭でも辛い思いを抱え、学校でも問題児扱いされ…

というのではなく、

学校が「心穏やかに過ごすことのできる場所」であったなら、

このような子たちにとって、

大きな救いになると思いますし、行動も落ち着くことと思います。

 

学校にいる時間というのは、結構長いですから、

楽しく過ごすことのできる時間がある

自分が認められていると思うことができる

ということが与える影響は大きいと思います。

 

 

 

以前、県の新任教員の研修を担当したことがあります。

 

私が担当したのは、35人程の初任者の先生たちで、

学級経営について、1年間に3回の研修を行いました。

 

みなさんとても熱心に学級経営に取り組んでいる様子で、

若さ溢れるパワーというのは、

子どもたちにとっても、魅力的だろうなと思ったのですが、

当然ですが、たくさんの問題に直面していました…。

 

こういう子がいて…

クラス全体が落ち着かなくなってきて…

上の先生方にも相談しているのですが、どうしたらいいのか分かりません…

 

 

その時、まずお話ししたことは、

教員が「(対応に)困る子」と思ってしまうと、そこから苦しくなるということ。

子どもには、「困る子」と思っていることが伝わってしまう。

「自分は、大好きな先生を困らせている」と思えば、

子どもは、悲しくなって、ますます困って、どうしたらいいのか分からなくなってしまう・・・。

 

子どもたちは、小さな体に抱えきれないほどのものを背負っていることもあるのだということを

私の経験をもとにお話しし、

「困る子」と思っている子は、

実は、「(本人が)困っている子」だったりするのだということを伝えました。

 

教員も人間だから、

傷つくこともあるし、悩むこともあるし、

成果が出なかったら焦ったり落ち込んだりするけれども、

“プロ”であり、子どもにとっては、ただ一人の担任の先生なのだから、

まずは、「自分が困っている」状況から脱する。

 

そして、

「あなたのことを大切に思っているよ」という姿勢を貫いていけば、

必ず何か見えてくることがある・・・。

 

 

 

次の研修までに、2~3ヵ月あったように思うのですが、

初任者の先生たちは、それぞれ自分なりに考え、工夫して、前向きに実践されたようでした。

 

そして、嬉しい「変化」を何人もの先生が報告してくれました。

 

前回の研修の後、その子のお母さんが学校へ相談しに来てくれました。

家庭の事情を聴いたら、本当に本人が困っていたのだということが分かり、

私の見方が変わりました。

そうしたら、その子が、以前より(担任である私の)話をよく聞いてくれるようになりました。

 

何も言ってくれない子のことで悩んでいましたが、

毎日、最低、朝と帰りには、笑顔で名前を呼んであいさつをし続けました。

そうしたら、まだあいさつを返してはくれませんが、

目を見てくれるようになって、時には、少し微笑んでくれるようになりました。

・・・・

 

 

現状のシステムでは、

「ルールを守らない子」「他の子と同じようにできない子」が批判されがちです。


教員の立場からすると、

ルールを作り、その枠に入れるようにしないと、

最大40人の子どもたちが同じカリキュラムに取り組むという状況を作るのは難しいです。

 

 

それでも…

学校が、子どもたちにとって心から楽しいと思える場所になることは可能だと思っています。

 

それぞれの子の良いところ(才能)を認め合い、

できないことがあっても、補い合うことができるのだという温かい雰囲気になり、

子どもたちが自己肯定感を高めることのできる場になることは可能だと思います。